「そうやま」と印刷されているが、
路線バスのアナウンスは「そやま」と言った。
いつも(10年以上前のことだが)、
その辺りで、バスに酔った。
硬い 針金入りのブラジャーを 外したいと思う、
…でも外せない。
(胸だけLLサイズ超で、おさえつけていないと、日本の里山の風景に そぐわない。人目が憚られる)
自分の体型(ムダに大きい胸)を 恨み、
「あと少し、あと少しで 目的地だから…」と、自分に 言い聞かせ、
目的地で バスを降りたときには、ヘロヘロ。
でも そんなことは、
いつも きれいさっぱり忘れてしまう。
そして、半年後とか1年後に、
また同じように、強行スケジュールで 空港からバスに乗り、
左右山を通過する辺りで、いつも 新鮮に苦しむのだった。
今年は、1ヵ月前から 鍼治療に(週1回)通っている。
(厳しい環境下でも 涼しい顔で過ごしたい?)
体質改善を はかっている途中で、
(鍼の先生からは、効果が出るのは 3ヵ月先と言われている)
今回も また、同じ苦痛を味わった。
南国(なんこく)の夏を、なめてた訳じゃない。
これまで、春や秋にしか、先祖の墓地を 訪れたことがなかった。
墓じたいは 山の中腹にあり、雑木林に囲まれているけど、…
空港発のバスを 降りてからの、
道と云う道が(山道さえも)、すべて アスファルトで(舗装された車のための道になっており)、
木陰がない。
秋口でも、残暑の照り返しは 凄まじかった。
真夏に行けば どうなるか、少し考えれば 分かることだが、…
考える余裕がなかった。
暑さ対策(熱中症予防)を何もせず、
高知空港発のバスに乗ってから、飲み水がない(掃除用の水もない)ことに気づき、
あわててバスの運転手さんに ことわってバスを降り、
自動販売機で500ミリリットルの水を買った。
事前に用意した物は、
現地では(時間に追われ、頼る人もなく、バスと自分の足だけが頼りの 墓参りでは)用意が大変な「花」と、
トゲのある雑草を切るための「植木バサミ」と「綿手袋」、
「1リットルの空のペットボトル」、
「プラスチックのカップ」くらい。
買ったはずの虫よけは なくした。
梅肉エキスの粒(去年、猛暑で危なかったとき 救われた)は 買いそこねた。
パート業務でクタクタ、徹夜で一睡もしていない状態で、
帽子も塩も、濡らせば冷えるタオルも持たず、
南国行きの飛行機に 飛び乗った。
隙あらば、死にたかったのだと思う。
バスを降りたのが10時17分、
墓地に着いたのが10時33分。
いつも携帯している 折りたたみ傘を 日除けにして、
20分足らず 歩いただけなのに、
炎天下の山登りと云うのは、人体に負担がかかるものらしい。
1時間くらい、殆ど動けなかった。
寒くもないのに ワナワナ震え(痙攣?)、
気が遠くなってしまい、
へたりこむことしかできない。
2メートル先は崖だ。
下手に動けば、
…転落、行き倒れ、
…数日後には、腐乱死体の出来上がり?
鳥の声が のどかで、
黒い羽根に 白い丸印の(喪服みたいな)蝶が、舞っていた。
墓地は 草に覆われていて、
私が1〜2時間 どうにかしたくらいでは、
(焼け石に水だ)と思った。
1時間半くらい除草していると、
巨大な、蛇みたいなミミズ(シーボルトミミズ?)が現われ、
それを 拝んで帰るのが 恒例(楽しみ)だったけど、
今回は、あきらめざるを得ない。
何故だか 分からないが、…
高峰三枝子さんの「おやすみ坊や」を、唄いたくなった。
唄ってみたが、
最初は 嗚咽になってしまい、歌にならない。
心理学者(特に女の)が 聴いたら、
執着とか、依存と云う言葉で、片づけられそうな 子守唄だけど、
(私の偏見か?)
そんな学術用語(?)だけでは、はかれない大切なものが、多分ある。
水しか 摂取するものがなく、
唄うくらいしか (自分を鼓舞する方法も)なくて、
ずっと唄っていた。
帰りのバスを 途中下車し(道の駅の トイレに寄るため)、
約1時間半後に 次のバスに乗ろうと、
5分前に バス停(左右山)に着いた。
雨傘の日よけでは、耐えられないくらい暑い。
(アスファルトの照り返しと、強い日射し)
とてもじゃないが、3分も 立って居られない。
100メートル離れた場所にある 建物の陰に避難してたら、
バスが通過して行った。…
(次のバスは、1時間半待ち?)
(タクシー? 選択肢にない)
(財布には、市電とバス賃と、夕飯代と、帰りの旅費のみ)
お遍路さんすら 歩いていない遍路道(真夏の炎天下)を、1時間歩いた。
(帰って地図を見たら 直線距離で4キロだった)
赤とんぼと、銀ヤンマと、空色のトンボに送られ、
子守唄を唄いながら。
(ブラウスを帽子がわりに)
ペットボトルの水は、鞄の中で お湯になっていたが、
私の体温は、そんなには上昇していない。
人体の自律神経の働きには、恐れ入った。
路面電車の駅に近い場所に来ると、
ジャムおじさんの石像があった。
路面電車で向かったのは 次の目的地、朝倉神社。
(本物の森があると云う)
社殿の奥に 山があった。
森の主木(ハナガガシ?)を、間近で見ることは 叶わなかったけど、
本物の森(赤鬼山)の自然は、
その神社があることで、人間の破壊を免(まぬが)れ、保たれてきた。
…と云うことは 分かった。
宿に着いて、1時間休み、
夕飯の買い出しに1時間かかり(市街地から遠い)、
その日 最初の御飯(パンとサラダ)を戴き、
替えの下着を忘れたので洗濯し、バスタオルにはさみ、力を入れてしぼって乾燥させ、
鞄の中を整理し終えたら、日付が変わっていた。
翌朝は 6時前のバスに乗り、空港に向かった。
飛行機は、往路ほど揺れず、無事に到着してくれた。
手荷物を受け取り(ハサミが機内に持ち込めないため 預けていた)、
モノレール、列車を乗り継ぎ、
自転車置き場に 近い駅で 下車。
約4分歩き、たどり着いた精算機に 番号を入力すると、5百円だった。(6時間百円)
財布には、10数円が残った。
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